
この記事は、忙しくて、つい睡眠を削ってしまう経営者に読んでほしいと思って書きました。
徹夜した次の日の私は、夕方ごろから頭が働かなくなります。そんな日は余裕がなくなって、人に優しくできません。そして、あとから反省します。そんな経験がある方も、いるのではないでしょうか。
それは性格のせいではなく、前の晩の眠りが、人への接し方に出ているのかもしれません。
UNIBRAND代表の栢原です。経営者の毎日は、スタッフへの声かけ、商談、お金の判断の連続です。このコラム「体と心から経営を整える」の2回目は、睡眠を取り上げます。睡眠不足が仕事の判断やチームの空気にどう出るのかを、経営者・上司を対象にした研究と、私自身の経験をもとに考えます。
この記事でわかること
- 寝不足が「自分では気づきにくい」理由(研究から)
- 睡眠不足が経営に出る3つの場面:部下への言い方、人前で話す力、判断のぶれ
- 睡眠の研究で、まだ分かっていないこと
- 翌日の予定から今夜を決める、寝る前の5分のやり方
今回は「足す」ではなく「戻す」話:なぜ睡眠なのか
1回目は、大事な判断の前に「3分を足す」話をしました。今回はその反対で、忙しさの中で削ってしまっているものを、少し戻す話です。
削っているのは、経営者だけではありません。国の調査では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は、男性で37.5%、女性で40.6%でした。男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代では、4割を超えています(厚生労働省, 2024「健康づくりのための睡眠ガイド2023」より、令和元年の国民健康・栄養調査)。2019年の調査で、本人が答えた睡眠時間です。働き盛りの世代の多くが、6時間を切っていることが分かります。

私にも、睡眠を削った時期があります。
ひとつは、Webサイトのリニューアルの締め切りが迫っていたときです。会社に泊まり込み、1晩に2〜3時間しか寝ない日が3日ほど続きました。頭はずっと、ぼーっとしていました。
もうひとつは、新卒で入った1社目のころです。1週間の合計で6時間しか寝ない生活をしていました。コピーを取りながら、立ったまま眠ってしまうほどでした。食事は毎日コンビニ弁当ばかりで、3か月で13kg太りました。そして、ある日、突然起き上がれなくなりました。削った睡眠は、戻せませんでした。
そのあとすぐ2社目に就職しましたが、1年ほどたったころ、仕事と家族のことでつらい出来事がいくつも重なりました。半年ほど、家に引きこもっていた時期もあります。この時期のことは、東洋経済オンラインのインタビューでお話ししています。
引きこもった時期は、睡眠だけが原因だったわけではありません。どれも私個人の経験で、誰にでも同じことが起きるとは限りません。
今は、21時30分〜22時ごろに寝て、5時ごろに起きています。7〜7.5時間ほどです。眠いときは6時まで寝ます。
寝不足は「自分では気づきにくい」
まず、1晩の夜更かしについての研究です。
同じ人に、眠らずに起き続けてもらう条件と、お酒を量って飲んでもらう条件の両方を試してもらい、検査の成績を比べた研究があります。起きてから17〜19時間たったころ(研究では夜10時半〜深夜1時ごろ)、一部の検査の成績が、血中アルコール0.05%のときと同じか、それより悪くなりました。
Williamson, A. M., & Feyer, A. M. (2000). Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication. Occupational and Environmental Medicine, 57(10), 649–655.

オーストラリアの39人を対象に、1晩眠らずに過ごした条件で調べた研究です。成績が落ちたのは一部の検査で、判断や経営の成績を測ったものではありません。朝6時に起きる人なら、起きてから17〜19時間は夜11時〜深夜1時ごろにあたります。メールの返信や、明日のことを考えがちな時間です。

では、毎日少しずつ削る場合はどうでしょう。「6時間寝れば、十分やれる」と思って忙しい時期を乗り切ってきた方も、少なくないと思います。ところが寝不足は、自分の状態を自分で測りにくいものです。
寝床にいる時間を8時間・6時間・4時間に分けて、14日間続けた実験があります。6時間以下のグループでは、注意力の低下が日を追って積み重なり、最大で2晩徹夜したのと同じくらいまで落ちました。一方で、本人が感じる「眠さ」は最初に上がったあと、ほとんど増えませんでした。
Van Dongen, H. P. A., Maislin, G., Mullington, J. M., & Dinges, D. F. (2003). The cumulative cost of additional wakefulness: Dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep, 26(2), 117–126.

この研究は、21〜38歳の健康な48人を対象にした、実験室での研究です。「6時間」は眠った時間ではなく、寝床にいた時間です。また、測ったのは主に注意力(反応の見逃し)で、経営判断そのものを測ったわけではありません。
それでも、「眠さに慣れること」と「頭が元に戻ること」は別だということは、覚えておいてよさそうです。
気づきにくいのは、自分の頭の状態だけではありません。上司と部下を対象にした研究では、寝不足はいら立ちを通して、お互いが感じる関係の質を下げていました。そして本人は、自分の寝不足が相手の受け止め方に影響していることに、気づいていませんでした(Guarana & Barnes, 2017, Organizational Behavior and Human Decision Processes)。
睡眠不足が経営に出る3つの場面

1. 部下への言い方と、チームのやる気
88人のリーダーとその部下に、約2週間、毎日アンケートに答えてもらった研究があります。リーダーの睡眠の質が悪かった日は、部下に対するきつい言動が増え、チーム全体のやる気が下がりました。同じ上司でも、日によって変わりました。睡眠の「長さ」では同じ結果は出ず、「質」で差が出ました。
Barnes, C. M., Lucianetti, L., Bhave, D. P., & Christian, M. S. (2015). “You wouldn’t like me when I’m sleepy”: Leaders’ sleep, daily abusive supervision, and work unit engagement. Academy of Management Journal, 58(5), 1419–1437.

本人と部下が答えたアンケートの研究です。
きつい言い方は、性格のせいとは限りません。睡眠不足のイライラが、そのまま言葉になって部下に届いているのかもしれません。しかもその影響は、言われた本人だけでなく、チーム全体のやる気にまで広がっていました。
冒頭に書いたように、私も徹夜した次の日は、人に優しくできなくなります。
2. 人を動かす話し方:朝礼・商談・説明会
前の晩の睡眠を削った人と、ふだんどおり眠った人にスピーチをしてもらい、録画を、条件を知らない人が評価しました。寝不足の話し手は「人を動かす力(カリスマ性)」が低いと評価されました。気持ちを本当にこめて話す工夫が減っていたためと考えられています。また、寝不足の聞き手は、同じスピーチを見ても響きにくくなっていました。
Barnes, C. M., Guarana, C. L., Nauman, S., & Kong, D. T. (2016). Too tired to inspire or be inspired: Sleep deprivation and charismatic leadership. Journal of Applied Psychology, 101(8), 1191–1199.

これはビジネスを学ぶ学生の実験で、1晩だけ睡眠を削った条件です。実際の商談がうまくいくか、売上が変わるかまでは調べていません。
それでも、経営者は人前で話す場面の多い仕事です。朝礼、商談、採用の説明会、新しい方針を伝える会議。思いを伝えたい日の前夜こそ、睡眠を守る。そう考えるきっかけにはなりそうです。
3. 判断のぶれ
寝不足の日は、自分を抑える力が下がり、いら立ちが高まって、職場のルールから外れた行動が増えた、という研究があります(Christian & Ellis, 2011, Academy of Management Journal)。
多くは本人の答えをもとにした研究です。経営者が不正をする、という話ではありません。ただ、寝不足の日は、いつもなら言わないひと言や、いつもならしない近道を選びやすくなるのかもしれません。
先に知っておきたい「睡眠の研究の限界」
「やっぱり寝ないとダメなのか」と思った方もいるかもしれません。けれど、睡眠の研究にも、まだ分かっていないことがあります。
頭の働きが、すべて落ちるわけではない
70本の研究をまとめた研究では、寝不足で一番大きく落ちたのは、単純な注意を保ち続ける力でした。筋道を立てて考える力(推論)の正確さは、はっきりとは落ちていませんでした(Lim & Dinges, 2010, Psychological Bulletin)。主に短い徹夜の研究なので、毎日の寝不足とは条件が違います。
寝不足で落ちやすいのは、集中の続き方と、気持ちのコントロールです。だからこそ、上で見た「部下への言い方」や「人前で話す力」に出やすいのかもしれません。
必要な睡眠時間は、人それぞれ
国のガイドでは、6時間未満で足りる人もいれば、8時間以上必要な人もいる、とされています(厚生労働省, 2024)。「何時間寝ないといけない」という正解は、一人ひとり違います。ただ、寝不足は自分の感覚だけでは判断しにくいことも、あわせて覚えておきたいところです。
長さだけでなく、質も
リーダー88人の研究では、長さではなく質で差が出ました。国のガイドも、睡眠時間と、朝起きたときに休めたと感じるか(睡眠休養感)の両方を見るよう勧めています。
「なぜそうなるのか」は、まだ議論が続いている
寝不足で言動が変わる仕組みについては、「自分を抑える力が消耗するから」という説明がよく使われてきました。けれど、その説明は大きな追試で確かめられず、研究者の間でも議論が続いています(Hagger ほか, 2016, Perspectives on Psychological Science)。寝不足と言動の関係そのものを否定したものではありません。

今日からできる小さな一歩:翌日の予定から今夜を決め、寝る前の5分で明日を紙に置く
今夜からできることは、次の4つです。ここから、1つずつ詳しく紹介します。
今夜からできること
- 翌日の予定を見て、大事な日の前の夜は早く寝て、お酒を飲まない
- 寝る前の5分で、明日やることを紙に具体的に書いて置く
- 夜は大事なことを決めず、判断は朝の自分にまかせる
- 寝不足の朝は、大事な判断を午後や翌日にずらせないか考える
ここで紹介するのは、新しい習慣を足すというより、夜の過ごし方を少し変える工夫です。

1. 夕方:翌日の予定を見て、今夜の過ごし方を決める

私が一番大事にしているのは、翌日のスケジュールを見て、前の夜の過ごし方を決めることです。大事な予定が入っている日の前の夜は、早く寝て、お酒を飲みません。
正直に言うと、翌日に何も予定がなければ、夜の自分に甘くなります。毎晩でなくても、守る夜を選ぶ。商談や朝礼など人前で話す日、スタッフとむずかしい話をする日の前夜は、特に守りたい夜です。
2. 夜は決めない。寝る前の5分で、明日を紙に置く

私は、夜はなるべく決断をしません。夜は子どもたちに時間を使い、仕事と子育てのON/OFFを意識しています。
とはいえ、経営者の頭は、布団に入っても明日のことを考えてしまいがちです。そこでおすすめしたいのが、寝る前の5分で、明日以降にやることを紙に書き出すことです。
寝る前の5分、「この先数日でやること」を書くグループと、「ここ数日で終わったこと」を書くグループに分け、睡眠を脳波などで測った研究があります。やることを書いたグループのほうが早く眠れました。そして、具体的に書いた人ほど、早く眠れていました。
Scullin, M. K., Krueger, M. L., Ballard, H. K., Pruett, N., & Bliwise, D. L. (2018). The effects of bedtime writing on difficulty falling asleep: A polysomnographic study comparing to-do lists and completed activity lists. Journal of Experimental Psychology: General, 147(1), 139–146.

健康な大学生57人が実験室で1晩だけ行った研究で、眠れずに悩んでいる人に当てはまるかは分かっていません。「何も書かない」グループとは比べていないので、書かないより良い、とまでは言えません。
ここで大事なのは、決めるのではなく、紙に置いておくことです。どれからやるか、どう判断するかは、朝の自分にまかせる。夜は決断しないという私の工夫とも、つながっています。研究と同じように、スマホではなく紙とペンで、できるだけ具体的に書くのがおすすめです。

私の場合は、毎日日報を書いているので、17時の終業の時点で、明日以降のタスクがはっきりしています。それをAIに読み込ませておくと、翌朝にはAIが調整したタスクを出してくれます。夜のうちに頭の中で段取りを考え続けなくてよいので、そのまま休めます。
- ✕「見積もり」→ ○「〇〇さんの見積もりを、10時までに送る」
- ✕「採用のこと」→ ○「説明会で話す3つのことを、昼までにメモする」
3. 寝不足だった朝は、大事な判断を後ろにずらせないか考える
どうしても眠れなかった朝は、大事な決定や、むずかしい面談、人を注意する話を、午後や翌日にずらせないか一度考えてみるのもひとつです。これは研究で効果を確かめた方法ではなく、ここまでの研究から私が考えた工夫です。
ふだんの夜にしていること

私は、スマホをなるべく寝室に持っていかず、19時以降はスマホを触らないようにしています。お酒は控えていて、カフェインは16時以降は飲みません。朝には、ヨガと瞑想をしています。
国のガイドでも、カフェインは夕方以降にとると夜の睡眠に影響しやすい、とされています(厚生労働省, 2024)。ただ、一般の大人が習慣をひとつ変えたら睡眠が良くなるかは、研究ではあまり確かめられていません(Irish ほか, 2015, Sleep Medicine Reviews)。「これをすれば必ず眠れる」というものではありません。

気をつけたいこと
- どれも無理のない範囲で行ってください。毎晩きっちりでなくてもかまいません。
- 眠れない状態が続く、日中の強い眠気が続く、いびきや呼吸が止まっていると言われた、などのときは、自分で何とかしようとせず、医師に相談してください。国のガイドでも、睡眠の不調の裏に病気が隠れている可能性に気をつけるよう書かれています。
- 持病がある方、お薬を飲んでいる方も、気になることがあれば医師に相談してください。
よくある質問
Q. 何時間寝ればいいですか?
国のガイドでは、「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」とされています(厚生労働省, 2024)。日中に眠くならないか、朝起きたときに休めた感じがあるかを目安に、自分に合う長さを探すのがよさそうです。
Q. 平日に足りない分は、休日にまとめて寝れば取り戻せますか?
国のガイドでは、眠りを「ためる」ことはできず、休日に多く眠っても平日の日中の眠気は完全には解消できない、とされています。休日も、起きる時刻を大きくずらさないのがおすすめです。
Q. 睡眠アプリや時計で測ったほうがいいですか?

目安として使うのはよいと思います。私も、ランニング用の腕時計を着けていて、どのくらい寝ているかは時計が把握しています。睡眠や体調を見て、その日に走る距離を提案してくれますが、だいたい無視しています。ただ、「休養」を提案された日は、走ってもやっぱり遅いです。
一方で、数字にとらわれすぎて、かえって眠れなくなった人の例も報告されています(Baron ほか, 2017, Journal of Clinical Sleep Medicine)。3人の例の報告なので、どれくらいの人に起こるかは分かりません。数字より「日中どうだったか」を大事にするくらいが、ちょうどよさそうです。
まとめ:眠ることも、経営の仕事
睡眠を整えれば、判断がいつも正しくなるわけでも、売上が上がるわけでもありません。必要な長さは人それぞれで、研究にもまだ分かっていないことがあります。
それでも、寝不足は自分では気づきにくく、部下への言い方や、人前で話すときの伝わり方に出やすい。この2つは、研究からも見えてきています。睡眠は、翌日の判断と、チームの空気の準備です。

私は、新卒のころに体調を崩したことをきっかけに、睡眠と体を大事にするようになりました。見た目に自信があること、健康体であることは、すごく大事だと考えています。ヨガを学んで、体と心がつながっていることを、理論でも体感でも知りました。時間を作るのは大変ですが、続けているときとやっていないときでは、やっぱり体調も気持ちも違います。
まずは、大事な予定の前の夜だけでも。寝る前の5分で明日を紙に置いてから眠る。そこから始めてみませんか。
次回は「体と頭の上手な休め方」として、朝の光と寝る前の1時間、昼の短い仮眠、ヨガニドラ(横になって体を順に感じていく休み方)を、研究とあわせて紹介する予定です。


